ユーザ事例 & スペシャルレポート

トイデザイン・原型製作という分野で、立体化・具現化が困難と言われている完全変形キャラクターの製品化を実現しているスタジオ・ハーフ・アイ。Vectorworksはその設計にも欠かせません。根強いファンを持つスタジオ・ハーフ・アイの完全変形キャラクター、その製作現場でVectorworksがどのように活用されているかをご紹介します。

お話を伺ったのは、スタジオ・ハーフ・アイ 代表取締役で原型師でもある 高島 肇(たかしま はじめ)さん。そのVectorworks活用方法は、直感的でもあり独創的です。


図面なしで具現化していた原型製作

-原型製作あまり耳慣れない分野ですが具体的な設計製作手法を教えてください。-

会社設立当初、原型製作はまったく図面を描かずにパーツからいきなり作っていました。というと、みなさん驚かれますが、程よい固さのウレタン樹脂を使いキャラクターの輪郭にあわせ、頭の中にあるイメージからひとつひとつのパーツを削り出して行くという製作の仕方です。製品は標準的なもので200~300パーツになり、実際に削り出したひとつひとつのパーツの確認や調整作業を繰り返し行い、それらを組み上げて最初の1体である「原型」を完成させます。ですから、製作期間は半年から数年という非常に長い期間を要しました。当時、原型設計、製作についてはすべて一人で行っていたので、図面がなくても問題がなかったのです。

伝える手段として手描きの図面を経てCADへの移行を決意

-CADを使おうと思ったきっかけは?-

自身で設計したものを社員に作らせるために、また、図面で伝える必要があったため、短い期間ですが図面を手で描いていました。手描き図面はまったくの自己流でしたが、アニメ制作で使うトレース台を使って、パーツを組み合わせた状態で下から光を投影しながら、紙に線を描くという方法で図面を描いていました。もちろん、手描きですので変更や修正作業は本当に大変でした。再検討する度に、線を消したり描いたりを何度も繰り返すので、紙もボロボロになり一から図面を描き直すことも度々ありました。作業効率を考えると、本当に無駄が多かったと思います。ちょうどその頃から図面をデジタル化、CAD化したいという気持ちが強くなり、操作性の良い 3D CADを探していたときに出会ったのがVectorworksで、導入に至るきっかけともなりました。

仮想空間で自らが立体物を造形していくイメージで3D設計からスタート

-原型設計にVectorworksをどのように活用していったのですか?-

CADはまったくゼロからのスタートで、丸や三角、立方体などを描くところから始めました。もちろん、そこからすぐに原型設計の図面には至らないのですが、導入当初から、手で作ると大変そうなパーツをあえて選び、モデリングしながらVectorworksでの原型設計手法を自分なりに確立していきました。

Vectorworksでの操作は、図面を描くというより、四角形のオブジェクトから立体を作成し、その立体を削ったり、削った立体と別の立体を組み合わせたり、切断をしたり複製するなど、手作業で「原型」を作っていた頃の感覚に近かったのです。ですから、Vectorworksを使って3Dで設計していくことに違和感はありませんでしたし、その使いやすさは触る度に実感していきました。

それに加え、3Dで作るということは、そのモデルデータをVectorworksから直接取り出し、光造形機でかたちにすることができる点も便利で、触れば触るほどVectorworksでの設計に引き込まれて行きました。

設計スピードは3倍に、ゴールが見えたら最短コースを行く

-Vectorworksを使用するメリットは?-

それは速さです。キャラクターのパーツ数によって設計期間は変わりますが、標準的なもの(約200~300パーツ)を手作業で行っていた頃は半年以上かかっていました。もちろん、最短コースで行うことを考えVectorworksを導入しましたので、その結果については満足しています。実際、原型設計においては、手で作るより3倍も速いのです。設計のゴールは、お客様が購入したいと思ってもらえる作品を作ることです。お客様は、最終的にかたちの善し悪しを見て判断します。ですので、見栄えの良さも重要です。そこで、イメージするかたちを最短コースで作れる道具が必要になる訳ですが、私にとってその道具がVectorworksになります。

Vectorworksを使うようになり、メリットを実感しています。ひとつは、Vectorworksで作成したモデル形状は、作成していく過程の形状履歴を保持しているという点です。AというモデルをBというモデルで切り欠いた場合、切り欠くカッターの役割をするBの形状を簡単に変更できるのです。形状の変更をしたい場合は、作り直すのではなく、ダブルクリックでモデルの中に入り編集ができるため、1プロジェクトの設計期間をさらに短くすることができています。新しい製品をリリースするスピードも速くなり、手がける作品の量も断然増えました。

もうひとつのは、作業環境の改善です。これだけのものをすべて手作業でつくるとなると、作業場所は削りかすや部品パーツで一杯になります。有機溶剤なども延々と使い続けますので、身体に悪いと環境だとも言えます。これも、Vectorworksを使うようになり、比較できないくらい改善されました。CAD化することは、環境にも良いと感じています。

自由度が高く直感的、それが一番の魅力

-Vectorworksの魅力は?-

Vectorworksは、他のCADに比べ本当に自由度が高く手に馴染むところが魅力です。というのも、ある時期、モデル作成とあらゆる方向からの形状確認をVectorworks以上に短時間で行いたいと考え、違う 3D CADを使ったこともありました。ですが、なかなか馴染めず結果として作業効率は格段に落ちてしまいました。Vectorworksを導入したての頃と比べてもその差は歴然としていました。Vectorworksであれば、モデリングをするときに、視点を変えながら2次元から3次元にして行くこともできます。

この操作は、スケッチブックに描いたイメージ画を立体にしていく感覚に似ていて、手作業でモデルを削り出していた頃のやり方に近かったということなのかもしれません。ですが、導入した他のCADではそれができなかったのです。要するにVectorworksの「直感的に作業ができる」そんな感覚が薄かったのかもしれません。もちろん、その当時、Vectorworksのモデリング精度について不満がありましたが、ParasolidベースになったVectorworksにバージョンアップしたことで解決しました。今後は、3Dモデル同士の一部分を拘束して動作確認ができるような機能を期待したいと思います。

「不可能を可能にする」に挑戦し続けたい

-Vectorworksを使って今後取り組みたいことはありますか?-

仕事は同じ方向性で、もっと大変なものや常に新しいことに挑戦していきたいと思っております。そして、デザイナーさんがアニメで表現した世界の延長上に当社の製品があると考えています。そのデザインをどのように料理するか、色々な創造を膨らませて変形の仕掛けや仕組みを考えていくことが挑戦でもあります。その形を具現化し現実的な擦り合わせ作業となる3D図面作製を行うVectorworksでは、より重いデータのものに挑戦したいと考えています。

当社の製品は完全変形のキャラクターですので、組み立てるのには労力がいります。最近の傾向としては、どうしても楽な方向に商売も買い手も流れがちですが、これは組み上げる楽しさを充分に伝えきれていないことが原因だと思います。組み立てるというプロセスは、製品そのものの価値に、お客様自身がさらに付加価値をつけていくことだと考えています。これは、とても大切であり重要なことだと思います。製品をつくり新しいことに挑戦し続けることで、同時に伝えていけたら良いとも考えています。Vectorworksは、その挑戦に欠かせない道具であり続けると思います。

【取材協力】

有限会社スタジオ・ハーフ・アイ http://studio-halfeye.com/

代表取締役 原型師 高島 肇 氏

(取材:2010年9月)

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