ユーザ事例 & スペシャルレポート

金沢工業大学で建築を学ぶ学生は、2年生の必修科目として「建築CAD演習」が義務付けられる。CADが未経験の学生でも、半年間の授業で、2次元図面の作成から3次元モデリング、そして図面とパースを組み合わせたプレゼンボードの作成までをマスター。さらに3年生では空間をイメージから素材感や整合性を考慮した設計に具現化していくというCAD教育が展開されている。これらの授業に使われているのが、エーアンドエーの3次元CAD「Vectorworks」だ。


CAD作図から3次元モデリング、プレゼンまで
初めての学生も半年間の授業でマスター

1学年300人の学生が学ぶ金沢工業大学の環境・建築学部建築系(建築学科と建築都市デザイン学科)では、「建築CAD演習」の授業が必修科目となっている。CADの操作の基本と2次元の平面図、立面図、断面図の作成、3次元でのモデリング、そして2次元図面とパースを組み合わせてレイアウトしたプレゼンボードを作成し、自分の設計内容についてプレゼンすることまでを、わずか半年間で建築系の学生全員がたたき込まれるのだ。

これだけの充実した内容でありながら、CADを初めて使う学生でも実質的にわずか9週間、延べ20時間の授業でマスターしてしまうという。この授業に使われているCADソフトこそ、エーアンドエーの3次元CAD「Vectorworks」なのだ。

「Vectorworksを選んだのは、なんといっても操作性がよいからです。図面だけでなく3次元モデリングもでき、さらに両方を組み合わせてレイアウトしたプレゼンテーション用の資料までできるところがよいと思います」と、授業を担当する金沢工業大学環境・建築学部建築学科の下川雄一准教授は説明する。(授業は宮下智裕准教授と共同で担当)

金沢工業大学の建築系学科におけるCAD教育の歴史は古く、1996年にさかのぼる。当初は建設業界で標準的に使われているCADなどを使っていたが、2 0 0 4 年から最終的にVectorworksに落ち着いた。「レイアウト作業のし易さや図面上のスケール感の把握のし易さも建築教育におけるデザイン演習に向いています」(下川准教授)。

建築教育には、大判の図面やパースの作成のほか、プレゼンテーションが欠かせない。また、CADの初心者である学生には、わかりやすく、操作性がよいことも授業への興味や理解を高めるために必要だ。これらの特徴を兼ね備えているVectorworksは、建築教育に適した3次元CADといえるだろう。

CAD操作よりデザイン思考に時間を
空間デザイン教育を密度濃く行う

続いて3年生では、「空間メディア」という授業(宮下智裕准教授、川崎寧史准教授と共同で担当)がある。選択科目にもかかわらず、約7割の学生が履修するほどの人気だ。Vectorworksはこの授業でも使われている。

この授業では、抽象的な空間イメージを膨らませながら建築の構想を固め、整合性のとれた設計に落とし込んでいくというデザインのプロセスを、CADを使いながら実習する。

「CADソフトの操作方法より、空間デザイン演習としての性格が強い授業です。デザイン思考にできるだけ多くの時間を割けるようにするため、使用するソフトはできるだけ簡単でデザイン思考を阻害しないものが望ましいです」と下川准教授は言う。

授業では、空間イメージづくり、形の構成、素材感や納まりを考慮した設計、そしてプレゼンテーションを、それぞれの学生が一つの作品を通じて段階的に進めていく。

「ぼんやりしたイメージから、3次元的な思考で具体的な形を作っていくとき、曖昧に手書きのスケッチを書いたりします。それはそれで大切な作業ですが、3次元でモデリングをするとごまかしが効きません。短時間で立体的な空間構成の検証をしたり、空間をリアルに表現したりできるので、空間デザインの教育もスピーディーに密度濃く行うことができます」(下川准教授)。

初心者にも簡単に使えるBIMを
建築環境の実践的セミナーも予定

建築業界では、建物の3次元形状とデータベースとしての「属性情報」を組み合わせた3次元モデルを使って設計を進めていく「ビルディング・インフォメーション・モデリング」(BIM)がブームになりつつある。

VectorworksもBIMに対応しており、金沢工業大学では、ヒートアイランド現象や地球環境問題に配慮した建築環境の授業に、BIM的な方法を導入することを計画している。その一例が、2009年度後半に、環境分野の研究室の学生を対象に試行する建築環境設計のセミナーだ。

担当する環境・建築学部建築都市デザイン学科の円井基史講師は、「座学で気象条件と住まいの関係、ヒートアイランドのメカニズムなどを学んだ後、Vectorworksと連動する熱環境シミュレーションソフト『サーモレンダー』を使って、自分たちが設計した建物の環境性能を検証しようというセミナーです。空間や材料との関係性がわかるようにしたいと思います」と語る。

金沢工業大学では今後、Vectorworksとともに建築業界でよく普及している他のBIM用3次元CADも使い、BIM用のデータ交換標準である「IFC形式」によってCADやCG、解析ソフトを連携させることによりオープンなBIMの教育環境を構築していく予定だ。

「将来は計画、デザイン、構造、環境を融合して、総合的な知識を持った建築設計者を育成していきたい。BIMをツールとして、様々な角度から建物の性能をブラッシュアップしていくような実践的な授業も行っていきたいです」と円井講師は言う。

新しい教育支援プログラム「OASIS」
加盟校なら最上位版CADがOASIS価格で使える

建築学科などでCAD教育を行おうとするとき、CADを教えるためのノウハウや、教材となるテキストなどに悩む教職員は多い。また、授業で使うためにはCADソフトのコストも抑える必要がある。こうしたニーズにこたえて、Vectorworksの発売元であるエーアンドエーは、2008年度から新しい教育支援プログラム「OASIS(オアシス)」を始めた。

大学や専門学校はOASISに加盟すると、最新の教育ノウハウを学べる教員向けの研修やセミナーが開催されるほか、エーアンドエーが学校用教材として制作した講習教材則本を購入できる。現在は、2次元製図用、3次元モデリング用、そしてプレゼンテーション用の3種類が用意されている。

また、Vectorworksを使って学ぶ学生には、同シリーズ最上位版である「VectorworksDesigner with Renderworks 2009J」と同等の機能を持つ「Vectorworks学生単年度版」を1本当たり1年間、わずか1万500円(税込)で提供され、予習や復習、卒業研究などに自由に使える。

Vectorworks学生単年度版は、2次元や3次元の高性能な汎用作図機能のほか、建築設計、宅地造園、舞台照明、機械設計の各専門分野別の設計支援機能、そして、膨大なデータライブラリやレンダリングプレゼンテーション機能がフルに搭載されており、一般への販売価格は44万9400円(税込)もするものなのだ。

「授業で高機能な3次元CADを使いたいと思っても、学生の負担を考えると慎重になってしまいます。金沢工業大学もこのほど、OASISに加盟しましたが、何十万円もするCADがわずか年間1万円ちょっとで使えるので安心です。これまでは教材として市販のVectorworks解説書を使っていましたが、今年はOASISの教材も使っていきたいと思います」(下川准教授)

Vectorworksが建築教育の現場に使われている理由は、CADソフトとしての特徴や機能が学校教育や初心者に向いているだけでなく、発売元自身が教育現場の教職員、学生に対して、様々なサポートを行っている点も見逃せないだろう。

抽象的な空間デザインをビジュアルにプレゼンテーションし、さらに数量計算や他のCAD、解析ソフトとも連携していけるVectorworksは、金沢工業大学の建築教育で「初心者でも簡単に使えるBIM」であることが実証された。価格も手ごろなので、今後、CADやBIMの教育を実践していきたい大学や専門学校なども、注目すべきCADソフトと言えるだろう。

【取材協力】

金沢工業大学 http://www.kanazawa-it.ac.jp

准教授 博士(工学) 環境・建築学部 建築系 建築学科 担当 下川 雄一 氏
 講師 博士(工学) 環境・建築学部 建築系 建築都市デザイン学科 担当 円井 基史 氏

このユーザ事例は日経BP社の許可により「建設・不動産の総合サイト ケンプラッツ」で
2009年4月28日より掲載された記事をもとに編集したものです。

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